interview.6

2026年09月15日

【担当者】本人希望により匿名、対象者の「インタビュアーはベジタリアンを希望」に適合する者
【対象者】インタビューへの同意書の記載名「Bartholomew the SireniaStella」

<記録開始>

インタビュアー:本日はよろしくお願いいたします。
Bartholomew:ああ、わかった。

 インタビュアー:まずはこのインタビューをご覧になる皆さんのために、お名前と簡単な自己紹介をお願いできますか?
Bartholomew: 私はバーソロミュー。姿を見せることは好まないのでこのインタビューは教会の告解室を特別に借り、私のプライバシーに配慮していただいた状態で行っている。
インタビュアー:あの、性別や年齢、ご職業の方は……
Bartholomew:ああ、忘れていた。性別は生物学的には女性、年齢は25よりも下とだけ言っておく。職業は介護士だ。
インタビュアー:なるほど、介護士なんですね

(対象者がしばし沈黙)
Bartholomew:ところで、君は私の指名通りベジタリアンなのか。
インタビュアー:そうですね、ベジタリアンをご希望とのことでしたので私が
Bartholomew:そうか。S肉についてどう思う 
インタビュアー:え、いきなりですね。そうですね……肉はあまり食べないので……よくわかりません
Bartholomew:よろしい、よくわかった。それで私に何を聞きたい
インタビュアー:あ、はい、そうですね、先日起きた生物学者リリウム・ルベルム氏の自宅における事故とS肉の流通制限の関連性、非公開情報についてバーソロミューさんがご存じであると我々にメールをくださいましたので……
Bartholomew:そうだったな。
何から話そうか…………。


まず、我々について。
私を含め、我が母には20人の娘がいた。諸事情があり今は13人前後に減少しているが、元は20人姉妹だ。
昔から有名な起源不明の宗教的な歌の「一人はのっぽ、あとはちび」と同じように、我々も長女とそれ以外に分けることができた。
我が母……リリウム・ルベルムは人間に都合のいい生き物を開発することを生業とし、我々の長女であるナノア姉上を生み出した。

そして、姉上の持つ知識や姉上の持つ暖かな感情の源流である彼女の記憶を共有できるように脳に細工を施した19体のクローンを生み出した。それが私を含む姉上の妹である。

姉上をはじめとした我々は、血、肉、骨、心、その他全てに至るまでを人間の薬、食料、癒しとなるよう改造された知能の高い新種の家畜である。
先に言っておくが、我々の遺伝子や見た目は人間そのものである。そのものであった。
我々はただ、姉上と繋がっていて、高い再生能力を持つ人間である。
それを先にご理解いただきたい。

我々は姉上と脳で繋がっているとはいっても、それぞれに性格がある。
私は正直者であるとよく言われるが、私の一つ下の妹であるフォマは名前の意味が「正直者」にもかかわらず人を疑うことをやめない疑心暗鬼な性格だ。ある意味でそれは正直ともいうのかもしれないが。

私の妹に、ユディという名を持つ妹がいた。名の意味は「感謝」であった。
ユディは脳に細工を施す際、リリウムの手が滑ってしまったからか我々全員とではなく、姉上としか記憶を共有できない個体であった。
それも相まってか我々とコミュニケーションを取ることに極めて苦労する性格で、我々もいつもユディとは話しづらいと思っていた。

おまけにユディは我々が取り除かれた「敵意」「他者への加害性」を持ったままの状態であったので、どのみち関わりたがる姉妹は少なかった。
当然だとは思わないか、みんなの思っていることが共有できることが当たり前の世界で育ったら、考えのわからない他者の存在を恐ろしく感じるものだ。
どのようなことを言ったら相手を怒らせるのか、どのようなことを言ったら相手が傷つくのかお互いにわからない。私はそれが恐ろしくてたまらないと感じている。

閑話休題。
私も姉妹の中ではあまり積極的に他の個体と関わることが得意ではなかったので、いつも他の姉妹の様子をうかがうことが楽しみであった。
姉上にいつもくっついているユディもその楽しみの一つで、普段から全員に優しく振る舞う姉上が年相応の子供らしい様相を見せる姿は嫉妬を感じるほど愛おしかった。

我々の住んでいたリリウムの研究所兼自宅は、見た目は小さいが巨大な吹き抜けと地下室が何層にも連なる筒のような構造である。
リリウムの寝室の隣の鳥籠にいるヒゲワシの人鳥族にちょっかいをかけたり、吹き抜けを利用して巨大なハンモックをかけてみんなで昼寝をしたりとそれはそれは楽しかった。

故、ユディと姉上はこの家の構造全てを知りたがり、家の隅々を調べていた。
私はそんな二人の様子を見るのが好きで、よく後ろを静かに付け回していた。二人とも夢中であったから私に気づくことは一度もなかったことが少し寂しいと感じるが。


ある時、ユディがリリウムの自室に忍び込み、本棚の後ろに隠し扉があることを発見した。
本棚の隙間はその窓と一致しており、扉が露出しない状態でも窓から中の様子を見ることができるのだ。
ユディはその隙間から「とても嫌な光景」を見たらしく、激昂した状態で姉上につかみかかっていたのをよく覚えている。

二人が去ったのち、私も部屋に忍び込み中を覗くと、そこには我々の姉妹ではない少女と、
その少女に甲斐甲斐しく薬をやるリリウムがいた。

いかにも病弱と言った様相のその少女は、リリウムの腕に抱かれ水薬を飲まされている様子でな。
それは姉妹同士で仲はよくとも、母の愛を知らぬ我々にとって容易に嫌悪感と嫉妬を誘うような光景としか言いようがないものだった。


言っておくが、この後ユディが行った行為について、私は半分賛成だ。
半分賛成。半分は反対だ。そういう感情なのだよ。わからないだろう。わからなくて当然だ。
私と君は違うのだからね。


リリウムは少女に薬をやり終わると、扉の方に向かってきた。
後に知ったことだが、本棚は内側からもスイッチ操作で動かせた。
中にいるときも本棚が扉を覆った状態にできたのだ、よほど我々にその実験を見せたくなかったのだろうね、リリウムは。

私は急いでクローゼットの中に隠れ、その隙間からリリウムが部屋を出ていく様子を見た。
その少し後、今度はユディと姉上が部屋に入っていくのが見えた。
姉上は私と意識を共有しているはずなのに、私の気配に気づいていながら無視をしているようでな、
私のユディへの嫉妬の感情はむくむくと膨れ上がったよ。私は少し嫉妬深いのでね。

その嫉妬が膨れきるよりも前に、強烈な光景が姉上から私に共有された。
見えるのは開け放たれた隠し部屋、全体を見ると浴槽やトイレ、洗面台の類もあり、奥には別の出入り口があることも確認できた。
だがそれ以上に、目の前で起きている出来事が強烈で私は耐えられなかった。
ここからは姉上と意識を共有していた故、姉上の経験した出来事になるが、その間私はずっとクローゼットの中で震えていたことになる。

端的に言えば、それはユディが少女に暴行を加える様子だ。
我々より一回りほど小さな少女の肩を強くつかんで壁に押し付け、腹部に蹴りを入れ、
少女のやたら長い髪をつかんだと思えば無理やり浴槽に沈め、死なない範囲で顔を無理やり水中に沈めては引き上げることを繰り返した。
私にはそれが、肉食性のシャチが獲物を弱らせて遊ぶようにも、人間を襲い片足を噛みちぎらんマッコウクジラにも見えた。

ああ、はじめて見る自分の妹の加害性と凶暴性に我が姉上がどのように対応したと思う?
ただの人間には信じられんだろう。姉上の優しさと崇高さを知るが良い。

我が姉上は初め、妹の名を呼んでいた。
呼ぶたびに一瞬ユディの身体の動きが鈍くなることに気づいた姉上は、その隙を狙って少女を水中から救い出し自分の腕の中に抱きしめた。
そして狂える自らの妹に「ユディを狂暴な化け物にしたくない」と声をかけ、意識共有を行った。
姉上と共有状態だったからか、不思議なことに普段ユディの気持ちがわからない私にもはっきりとユディの考えていることがわかった。

ユディは母の愛に飢えていた。
当然だ、我々の母はリリウムだが、リリウムではない。
我々の遺伝子上の母は姉上であり、リリウムではない。

だがユディは母の愛を求めた。
20人姉妹では到底受け取ることもできない母の愛を求めていたユディにとって、「見ず知らずの少女を甲斐甲斐しく世話するリリウム」なんて嫉妬どころではない強烈な憎しみの感情を掻き立てたのだ。

姉上はそれをずっとわかっておられた。
ユディと繋がれて、共有できるのは姉上だけだったのもそうだろう。
だが、姉上自身もきっとあの光景を見たとき、少しだけ寂しかったのではないだろうか。私はそう感じた。

姉上は少女に自らの血をかけて治療し、「ごめんね、痛かったよね、あとは母さんにやってもらってね、本当にごめんね」と声をかけ、茫然としているユディを連れて部屋を出た。

そして本棚を閉めたのち、その場で「私はここにいる」とユディを抱きしめたのだ。

普通の人間であれば、他者に暴力をふるった身内のことは叱るだろう?
姉上は違う。
我々は意識が繋がっているから、それは自己愛と取られてしまうことも多い。
姉上は違う。それを私は伝えたい。
故、私はインタビューを受けたのだ。

先日の事故、内容は「リリウム・ルベルムの研究所から逃げ出した実験体を別の実験体が処分した」と報じられているが、実際には違う。

ユディが異形の姿になり果てた姉上を自らの手で葬ったのだよ。
それは感謝のため、ユディのその名の通り「感謝」のためにね。
ペトラ姉さんやヨハンナ姉さんは私の解釈をわかってはくれなかったが、きっと誰かがわかってくれると私は信じている。

我が姉上は姉妹全員と記憶を共有していたのだ。
「S肉」として流通している我が姉妹全員の記憶を持っておられた。
きっと痛かった記憶も、寂しかった記憶も、全て持っておられる。

だが姉上は最後までリリウム・ルベルム……母を恨まなかった。憎まなかった。母の想いに適う存在になろうとした。

私は姉上を愛している、故に伝えたい。
我が姉がユディや私を愛したこと、それは自己愛の延長ではない。
「自分自身や姉妹と同じぐらいに、他者を愛する」という姉上の愛だ。

私はそれを伝えたい。姉上は確かにそこにいたと。
<記録終了>

後日、念のため仕掛けておいた告解室の監視カメラを確認すると、
竜人に酷似した、異様に白い人間のような肌と髪を持った化け物が話している様子が記録されていた。

Share
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう